メルボルンで美術館に⾏き尽くす!【⽳場の美術館編】

スカルプチャー・ガーデン編】では、広⼤な敷地を活かした庭が⾒どころの美術館を紹介しましたが、メルボルンやその周辺には、屋内での展⽰に趣向をこらした美術館もたくさんあります。

学芸員の話を聞いたり、作品からオーストラリアの固有の⽂化を教えられたり、訪問者が参加できる仕掛けの中で美術館という場を楽しんだり――

私が訪れた際の印象深い展⽰を振り返りつつ、ガイドブックなどには載っていないマイナーな美術館をご紹介したいと思います。

美術館が好きな⼈には⾏き先選びの参考に、そうでない⼈にはオーストラリアの⽂化を知る⼿がかりとして、読んでもらえたらと思います。

タラワラ美術館

タラワラ美術館
 
⽳場の美術館に⾏ってみたいという⼈におすすめなのが、タラワラ美術館(TarraWarra Museum of Art)です。

ここはワイナリーで有名なヤラバレーにあり、以前ご紹介した動物園、ヒールスビル・サンクチュアリに⾏く途中に位置しています(【メルボルン近郊・三⼤動物園をゆく!】参照)。

この美術館に公共交通で来る⽅は要注意!

バスは美術館の⽬の前の道を⾛っていますが、バス停はありません。

美術館前で降ろしてもらえるよう、運転⼿にあらかじめ⽬的地を告げておきましょう。

帰るときは美術館の⾨の前でバスを待ち、バスが来たら⼿を振って合図するとよいでしょう。

おおまかなバスの時刻は、美術館の受付で教えてもらえます。

タラワラ美術館
 
私が訪れた⽇は、美術館前の敷地で Local Artisan Makerʼs Market というマーケットが開催されており、陶芸や絵画、アクセサリー、洋服など、アーティストたちの作品が並んでいました。

値段も⼿頃で、⾃分⼟産を選ぶのに時間がかかります。

そこから斜⾯を上って⾏くと、背景の⻩緑に映える作品が現れます。

タラワラ美術館
 
タラワラ美術館

⾒かけは廃墟のようなこの建物、中には異なる空間が⽤意されています。

ここで何が起こるかは、実際に体験して確かめていただくことにしましょう。

美術館は⾒晴らしのよい丘の上にあり、マーケットが開催されているふもとの林や、ぶどう畑を⼀望できます。

タラワラ美術館 タラワラ美術館

⼊館料は⼤⼈ 10 ドル。学⽣は無料の⽇もあるので、調べて⾏くとよいでしょう。

屋内の展⽰室には、オーストラリアの抽象作品が飾られています。

学芸員は皆フレンドリー。

来館者に声をかけ、丁寧に解説してくれます。

私のところにも⽩ひげのおじさんがやってきて、こう⾔いました。

「絵にはそれぞれストーリーがある。だけど抽象画は語らない。考えるんだ。さあ、この絵を⾒てごらん。今は何⾊に⾒える? 緑⾊だろう?
でも少し離れて⾒てみると……」

何歩か後ずさって⾒ると、キャンバスいっぱいに緑⾊を塗っただけのその作品が、⻩⾊味を増して⾒えた。

「えっと、⾊が変わって⾒えた。今のと同じ感覚を、マーク・ロスコの絵を⾒たときに感じたんだけど……」

マーク・ロスコとはアメリカの抽象表現主義の画家で、千葉県にある DIC 川村記念美術館では、専⽤の部屋でロスコの⾚い作品群を⾒ることができます。

私はアメリカを旅した際にロスコの絵画を⾒、ぼうっと⾊が変化して⾒え、⾊に包まれる感覚を味わいました。

正直に⾔うと、それまで「ただ絵の具を塗りたくっただけで有名画家になるなんてズルい」と思っていたのですが、その変化に気づいたとき、ただごとじゃないと悟った。

タラワラ美術館でも、学芸員に導かれてその不思議な感覚を味わうと同時に、私はあるべきところに絵を置くという「場」の重要性も感じました。

光が差し込む⽩い壁の展⽰室は、シンプルですが⼗分な⾼さとスペースがあり、抽象作品を邪魔しません。

作品と鑑賞者の感性の双⽅を活かすには、その作品に適した「場」が必須なのだと考えさせられました。

タラワラ美術館

私が訪れた際の特別展(2018年3⽉)は、イギリス出⾝、シドニーで制作を⾏う⼥性アーティスト「Hilarie Mais」の作品を並べたもの。

タラワラ美術館 タラワラ美術館

様々な⾊の⽊のスティックを格⼦状に組み合わせ、リズムを感じさせる作品が⽣み出されています。

これも単に幾何学的に並べただけではなく、ロジカルに、緻密に計算して、⾒る者が錯覚するよう作られている。すばらしく⾯⽩かった。

⼀⾒すると捉えどころのない抽象作品が、ずっと⾒ていてもあきない深みをともなって⾒えた。

この美術館、規模は⼤きくありませんが、私はとても好きです。

モーニントン半島地域美術館(MPRG)

モーニントン半島地域美術館

他にもオーストラリアのアーティストならではの作品を⾒せてくれた、印象深い美術館がありました。

モーニントン半島地域美術館(Mornington Peninsula Regional Gallery, MPRG)です。

ビーチでオーストラリアの海を楽しむ観光客が多いモーニントン半島で、わざわざ地域美術館に⾏く観光客は……あまり多くはないでしょう。

でも私はそこに⾏き、そして実際の海と同じくらい、海を感じさせる展⽰を⾒た。

⾏ってみる価値はありました。

メルボルン中⼼部から電⾞でFrankston駅へ。

そこからバスで40分ほど⾏くと、あずまやのあるバラ園のその先に、美術館があります。

モーニントン半島地域美術館 モーニントン半島地域美術館

⼊館料は⼤⼈4ドル。

私が訪れた 2018年3⽉には、2種類の企画展を⾏っていました。

モーニントン半島地域美術館

特に⽬を奪われたのが、“Cultural Jewels”と題された展⽰。

Lola Greeno という、オーストラリア南部、タスマニアの⼥性アーティストの作品です。

⿃の⽻。

カンガルーやポッサムの⽑⽪。

ハリモグラの針。

⼤⼩⾊とりどりの⾙殻。

そうしたものを材料に作られたネックレスなどの作品が、丁寧に展⽰されていました。

⼀つ⼀つの作品は、すごくシンプル。

しかし⼟地の⽂化が丸ごと⽬から⼊ってくるような衝撃でした。

受け継がれてきた⽂化、と⾔葉にしてしまうと陳腐ですが、これが⼿から⼿へと世代を超えて伝えられてきたのだとわかる。

それぐらいの⼒が、⾙殻のネックレスにありました。

ここもタラワラ美術館同様、展⽰室の数は限られており、注視しなければあっという間に⾒終わってしまうでしょう。

しかし私は 2 時間以上そこにいて、バスの本数が限られているためあわてて出たものの、本当はもっといたかった……。

帰りにモーニントン半島の海沿いまで⾏き、釣り⼈のいる⻑い桟橋や、モニュメントのある崖の上を散歩しました。

モーニントン半島地域美術館 モーニントン半島地域美術館

そこから⾚茶の⼟と⻘緑の海を⾒下ろしながら、美術館で⾒たものを思い出しました。

しみじみといい展⽰だった。

⿊や⽩の⾙がうかべる、海の⾊の光沢。

忘れられません。

モーニントン半島地域美術館

モナシュ写真美術館(MGA)

モナシュ写真美術館

モナシュ美術館(Monash Gallery of Art, MGA)も観光客にはあまり知られていない美術館ですが、⾒応えのある展⽰を⾏なっていました。

メルボルン中⼼部から電⾞で40分ほど、Glen Waverley駅へと向かい、そこからバスで10分程度で着きます。

モナシュ写真美術館

⼊館料は無料(寄付ボックスが設置されています)。

私が訪れた 2018 年 5 ⽉に⾏われていた展⽰は、“ANTIPODEAN EMANATIONS cameraless photographs”というもので、オーストラリアとニュージーランドのアーティストの作品が、照明を落とした室内に飾られていました。

20 世紀前半に多くの画家を突き動かした前衛芸術の運動は、写真家たちにも影響を与えます。

彼らはよりアーティスティックな効果をもたらす⽅法を求めて、様々な試みを⾏いました。

そうした⽅法の模索は、現在のアーティストたちにも受け継がれているようです。

写真の技法について何⼀つ知らない私はここで、「何かをあるがままに写すのが写真」という概念をひっくり返されました。

レントゲンのように⾒えたり、オーロラのようだったり、影絵や抽象絵画そっくりだったり……。

それぞれのアーティストにそれぞれの⼿法がありました。

美術館の周りには、彫刻が点在する庭があり、池のまわりを散歩できます。

モナシュ写真美術館 モナシュ写真美術館

併設されたカフェも感じがよく、酸味のあるオーストラリアらしいブラックコーヒーを飲みながら、展⽰の余韻に浸ることができました。

モナシュ写真美術館 モナシュ写真美術館

美術館には好みがあるし、⼩さな美術館では企画展がメインにすえられていることも多く、その展⽰を万⼈が楽しめるかと⾔われると、……難しいでしょう。

私も以前はほとんど興味がなかったし、誰かからすすめられても聞き流していました。

しかしもし時間があるのなら、美術館めぐり、とりわけ地域のアーティストの作品を⾒ることをおすすめしたい。

いずれ何かの拍⼦に、美術館での出会いや会話をひっくるめて、その作品を思い出す瞬間があるかもしれない。

「観る」という⾏為はちょっと疲れるけれど、何年も後になって、⽐較したり、考えたりする材料になるかもしれない。

私は美術館をめぐり、様々なアーティストの主張や背景ごと知っていくことで、オーストラリアを⾃分なりに理解していきたいし、それはある程度可能だと思っています。

とりわけあまり⼤きくない美術館は、その国や地域、⽂化、そしてそこに⾝を置く⾃分⾃⾝と向き合う機会を、静かに与えてくれると感じています。

(ライター:NAO)