メルボルンで美術館に行く尽くす!【シティーの美術館編】

庭が自慢の美術館(【スカルプチャー・ガーデン編】)、ちょっとマイナーな美術館(【穴場の美術館編】参照)とご紹介してきましたが、そこで登場した美術館は、どこも電車とバスで乗り継ぎが必要です。

そんな時間はないし、気軽に行ける美術館はないの?と思われるかもしれません。

もちろんメルボルン中心部にも、美術館はあります。そして無料で入館でき、規模も大きいのが、複数ある。

美術館シリーズの締めくくりとして、国立美術館を含め、メルボルン中心部のアート・スポットを出し尽くしたいと思います。

国立ビクトリア美術館(NGV)

国立ビクトリア美術館

国立ビクトリア美術館(National Gallery of Victoria, NGV)は「国立」の名にふさわしく、堂々たる収蔵量。

この美術館は、オーストラリア国内のアーティストの作品を中心とした NGV オーストラリア(The Ian Potter Centre; NGV Australia)と、世界各国から作品を集めた NGV インター ナショナル(NGV International)に分かれています。

NGV オーストラリアはフリンダース駅のすぐ近く、NGV インターナショナルはトラムで川を越えた先。

別の場所にある独立した建物で、どちらも基本的に無料、特別展のみ有料です。

ではまず、駅からほど近いNGVオーストラリアから訪れてみましょう。

NGVオーストラリア

ここでは、アボリジニの先住⺠アートから現代のアーティストまで、オーストラリアの画家の作品に親しむことができます。

私は語学学校の授業の一環として、この美術館の無料ガイドツアーに参加したことがあります。

植⺠地時代の画家から、以前ジーロン美術館の記事(メルボルンからの鉄道の旅【ジーロン・ ベンディゴ・キャッスルメイン】参照)で紹介したFrederick McCubbin や、ぼやけた風合いの風景画を描く20世紀の画家Clarice Beckettなど、年代を追って主要な作品を眺めていきます。

オーストラリアの画家をほとんど知らない私は、要点をおさえた説明によって主要な画家を知ることができ、得した気分になりました。

さて、NGVインターナショナルに移りましょう。

NGVインターナショナル

ここはピカソやアンディ・ウォーホルなどの世界的な有名画家の作品をおさえており、杉浦功悦という日本のアーティストの造形、モネやピサロなどのフランス印象主義、アジア美術と、世界中のあらゆる美術をみせてくれます。

ほら、中南米の土器も展示されていて、収蔵作品の幅広さがわかるでしょう。

NGVインターナショナル

常設されたこれらの展示に加え、企画展にもかなり力を入れているのがわかります。

本年(2018年)4月15日まで行われていた“NGV TRIENNIAL”という企画展では、32か国からアーティストの作品を集めたそう。

その中には草間彌生の“Flower Obsession”という作品も。

鑑賞者は赤い花のシールを受けとってから部屋に入り、壁やテーブルなどに花を貼り付けるというもので、大掛かりで、来館者にとって忘れられない展示となるような作品でした。

NGVインターナショナル

日本のデザインスタジオであるNendoの作品、“Manga Chairs”も面白い。

ずらりと並んだ椅子は漫画の吹き出しや効果線などを表しており、世界的に浸透してきた日本の漫画をアートの一形態として、いつもとは違った側面から眺めることができます。

NGVインターナショナル

他にも歴史画など油絵の大作が展示された部屋に物質的な現代アートがあったり、寝仏と⻄洋の伝統的な彫刻を組み合わせた作品、巨大髑髏が部屋中に配置された作品など多様で、文化の融合や、各地で起きている出来事などを想起させます。

NGVインターナショナル NGVインターナショナル NGVインターナショナル

私は髑髏が並ぶ様子を見たとき、カンボジアのポル・ポト政権下の虐殺現場、キリング・フ ィールドで見た、積み上げられた髑髏の塔を思い出しました。

本年3月には、ここNGVインターナショナルで、“Melbourne Design Week”としてデザイン関連のイベントが催されていました。

私はデザイン図書の販売ブースを見に行き、オリジナルグッズとともに普通の本屋では売られていないような版元の図書を物色。

NGVインターナショナル

デザインに興味のある人々が、実に熱心に見入っていました。

私がこれらの国立美術館を訪れた感想は、以下のようなもの。

ニューヨークのメトロポリタン美術館や、ウィーンの美術史美術館、マドリッドのプラド美 術館などと比べると、収蔵作品の歴史的な厚みや量は、やはり圧倒的に少ない。

しかしその分、オーストラリア固有の文化や現代社会に焦点を当て、見るものを取り込むような展示がものすごく面白い。

オーストラリアへの入植が始まったのは 18 世紀、連邦国家となったのは 20 世紀のはじめ です。 イギリスとの結びつきが強いとはいえ、他地域から地理的に離れていることもあって、世界各国の作品の収集は容易ではなかったに違いありません。

しかしオーストラリアでは、イギリス人の入植前から連綿とアボリジニの文化が続いており、また現在は多文化社会をうたっているため、様々な国から人や芸術が集まります。

その現代オーストラリアの特性を、収蔵作品から読み取ることができます。

NGV オーストラリア・インターナショナルの両館とも、展示が変わるごとに訪れたくなります。

名実ともに、ビクトリア州が、いやオーストラリアが誇る美術館といえましょう。

オーストラリア現代アートセンター(acca)

オーストラリア現代アートセンター(The Australian Centre for Contemporary Art, acca) は NGV インターナショナルからほど近い、中心部から少し南側のエリアにある現代美術館。

オーストラリア現代アートセンター オーストラリア現代アートセンター

意欲的な展示に目を見張ります。

私が訪れた際の展示は“UNFINISHED BUSINESS:Perspectives on art and feminism”(2018年3月25日まで)。

フェミニズムに関する展示です。

オーストラリア現代アートセンター オーストラリア現代アートセンター オーストラリア現代アートセンター

日本で「フェミニズム」というと、女性にやさしい人というようなイメージがありますが、本来は男女同権主義、という意味合いが強いように思います。

驚かされるのは、このテーマが博物館で往往にして取り上げられているということ。

たとえばビクトリア・ポリス博物館も、女性の警察官が受けてきた差別待遇や、権利を回復していく様子を展示していました。

以前、オーストラリアに⻑く住む人が

「日本はまだ性別役割意識が強いし、家事の負担も男女で全然違うね。オーストラリアはその点男もいろいろやるけど、平等だからおごってもらえないよ! どっちがいい?」

なーんて話をしていたことが。 私は迷わず後者を選びますが、その点この展示の主旨は、十分に興味をひくものでした。

オーストラリアにも差別はあるとはいえ、LGBTや難⺠、女性、弱い立場に立つ人々への関心は高く、それは私にとって、この国の居心地のよさの要因の一つです。

ただ単に「美しい」だけでなく、鑑賞者に何かを考えさせるということ。

現代アートの価値は、むしろそこにあるのでしょう。

オーストラリア現代アートセンター

イアン・ポッター美術館(メルボルン大学)

イアン・ポッター美術館 イアン・ポッター美術館

メルボルン大学の中にあるのが、このイアン・ポッター美術館(The Ian Potter Museum of Art)。

先ほど挙げた国立美術館の NGV オーストラリアも「イアン・ポッター・センター」と呼ばれているため、ちょっとややこしいのですが、別物です。

大学附属の美術館、規模はさほど大きくありませんが、テーマ性のある展示を美しい建物の中で行っていました。

白い壁、窓から木々が見えて、学校の校舎にいるなという気分。黑い展示ケースや照明の具合も絶妙で、妙に居心地がいい。

イアン・ポッター美術館

私が訪れた2018年4月の展示は、文字や動物、食べ物を独特のデザイン性で配置したStieg Perssonや、ガラスや木の製品をテーブルに並べて空間自体を作品として仕上げるようなMeredith Turnbullのもの。

どちらもメルボルンで活動するアーティストです。

Stieg Persson Meredith Turnbull

ついでに大学キャンパス内を散策。

もしかしたら私も学生に見えるかも!などと思いながら、ちょっと若返った気分になりました。

海外では国立や公立の美術館の入場料が無料である場合が多々あり、メルボルンも同様です。

友達同士で気軽に入ってもいい。

興味が持てなかったらすぐに出てもいい。

そんな開かれた場所として、美術館を活用できます。

メルボルンに 5 か月滞在していた私は、ほとんど毎週どこかしらの美術館に出かけ、それでも飽きることはありませんでした。

オーストラリアの美術は日本人にとってなじみがあまりないかもしれません。

しかしその分、格式や権威に圧倒されることなく、観る側が自由でいられる。

観光や用事のあいだにちょっと時間がある、そんなときに、近場の美術館を訪れてみてはいかがでしょう。

一見の価値は、十分にあると思います。

(ライター:NAO)